共創の最前線で生まれるストーリーから
次なるオープンイノベーションの可能性を紐解く。

#1 キリンの挑戦


「競争」から「協調へ」


キリンの挑戦 play

キリンホールディングスが湘南アイパークをヘルスケアサイエンス研究の最先端に
「競争から協調」への転換を加速させ、オープンイノベーションで未来を拓く

(左)キリンホールディングス株式会社 執行役員 R&D本部長 高見義之氏 (右)キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所 所長 矢島宏昭氏
(左)キリンホールディングス株式会社 執行役員 R&本部長 高見義之氏
(右)キリンホールディングス株式会社 R&本部 キリン中央研究所 所長 矢島宏昭氏

iWill事業を通して社会課題を解決していきたい

「競争」から「協調」へ:時代の潮流変化に乗ってキリンが限界を突破する

まずは、現在のキリングループの事業展開とビジョンについて教えてください。

高見氏

私たちは、「食品事業(酒類・飲料)」と「医薬事業」に加え、疾病予防や身体ケアを目指した「ヘルスサイエンス事業」を展開しています。ヘルスサイエンスとは、食品と医薬品の中間に位置する存在で、人々の心と身体の健康に貢献できる領域を示します。具体的には特定保健用食品や機能性表示食品といった領域の商品を中核に据えています。これら3つの事業を通して、人々のよろこびをつくり出し、社会課題を解決していくことが、キリングループのビジョンです。

キリンは創業以来、「発酵とバイオテクノロジー」を事業のコアコンピタンスとしてきました。発酵についてはキリンビールが中核となり長年にわたり研究を重ね、そしてバイオテクノロジーについても植物や動物の細胞研究などを長年にわたり展開してきました。これらのキリングループの研究は、すべて現在のヘルスサイエンス事業に直結しています。酒類製造から創業した会社が医薬事業、ヘルスサイエンス事業へと拡大している例は、世界的に見ても非常に少ないと思います。

キリンホールディングス株式会社 執行役員 R&D本部長 高見義之氏

これまで、キリンの研究開発にとってオープンイノベーションはどのような役割を果たしてきましたか?

高見氏

キリングループ内の研究連携はこれまでも活発に行ってきました。キリングループは、キリンビールやキリンビバレッジなど事業会社ごとに研究所を持っていましたが、2013年にキリンホールディングスの「R&D本部」に研究拠点を統合。事業の垣根を越えて研究成果やノウハウを活用できるようになりました。この頃から「外部の様々な知見をもっと取り入れてオープンイノベーションを進めたい」という意識が高まり、キリン中央研究所が担う基礎研究、素材研究の分野では2010年頃から大学や公的機関などとの産学連携、産官連携による研究を活発に行ってきました。

キリングループがオープンイノベーションを加速させる背景にあるのは、市場において「競争領域」が「協調領域」へと変化してきたという時代の変遷です。かつては、市場競争が激しい中で私たちが他社とコラボレーションしたいと思っても、現実の世界で進めるには様々なハードルがありました。しかし、世の中が変化して、「本来競争する相手であっても協力しあって新しい価値を創造したい」という考え方が広まりつつあります。この湘南アイパークを見ても、競合している企業同士が同じ施設に入居し、コミュニケーションをするなど、かつては考えられなかったわけです。この流れに、私たちも乗っていきたいと考えています。

もうひとつ、オープンイノベーション推進の背景にあるのは「私たちだけでは、限界がある」という思いです。基礎研究でも、応用研究でも、出口戦略でも、自分たちだけでできることには限りがあります。その限界を突破する方法が、オープンイノベーションだと考えています。私たちの事業領域に留まることなく、異業種とのコラボレーションによって新しい価値を創造するための挑戦でもあります。


iThinkコラボレーションの起点となる場を目指して

ハード面、ソフト面のメリットを活かして、オープンイノベーションを加速へ

今回ヘルスサイエンス領域の研究中核拠点を湘南アイパークに移転されました。
湘南アイパークを選ばれた理由を教えてください。

高見氏

2021年、キリングループである協和発酵バイオの研究所が、キリン中央研究所に組織統合しました。ヘルスサイエンスの領域でグループ内にキリンと協和発酵バイオという2社がそれぞれ研究拠点を持つのではなく、統合して一緒に研究を進めた方が連携が進むと考えたからです。物理的にも両者を融合するため、オープンイノベーションの観点から、湘南アイパークに拠点を移しました。

湘南アイパークへの移転に関してはどのような苦労がありましたか?

高見氏

引越しが一番大変だったかもしれませんね(笑)。高価で特殊な研究用機器を数多く所有していて、機器の移動に手続きが必要なものもありましたので、引越し作業自体は1ヶ月半ほどで終わりましたが、移転が決まってから引越しが完了するまでにはトータルで1年近く掛かっています。湘南アイパークの施設担当者の方にはいろいろサポートしていただきました。

湘南アイパークへの移転を実現したことで、今後の研究活動にどのような効果を期待していますか?
実際に生まれている効果があれば教えてください。

矢島氏

ハード面、ソフト面双方に効果があると思います。ハード面については、共用の実験設備を使えたり、自社で所有するには高価な機械を共有機器としてレンタルできたりして、研究費の最適化・削減を実現しています。維持・管理の労力が省ける一方、借りたいときに借りられるため、研究の加速をすでに実感しています。

ソフト面では、他の入居企業やメンバーシップ企業など、湘南アイパークのコミュニティーに所属する様々な業種の企業やアカデミアと出会える点は大きいです。たとえば、現在若手研究員が技術の勉強のために、入居している他社の社長様からメンタリングを受けています。とてもいい勉強になっているようで、こうした企業横断的な関わりから学ぶ機会を今後も作っていきたいと思います。

キリンと異なる視点、異なるカルチャーを持った方々と交流するのは、私たち単独で、自社の研究施設内では実現できないことです。これから様々なきっかけを通じて新しいアイデアが生まれるようなコミュニケーションを進めていきたいです。湘南アイパークには有志の研究者が交流しながら知見を共有する論文査読会である「サイエンスカフェ」や、研究開発の出口戦略を考える公開イベントの「イノベーションタイガー」など様々な研究者が集まる機会が多数用意されているので、そうした場も活用していきたいと思います。

キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所 所長 矢島宏昭氏

iInnovate多様な刺激からイノベーションを生み出す

これからの時代、新しいイノベーションは1社では生み出せない

今後、湘南アイパークというプラットフォームを研究開発にどのように活かしていきたいか、展望をお聞かせください。

矢島氏

ハード面では移転が完了してから、うまくスタートをきることができたと感じています。今後も一層、湘南アイパークの設備・機器を活用しながら様々な研究を推進していきたいと思います。一方、ソフト面では入居している企業のいろいろな方と顔見知りになっていかなければ、想像もしなかったようなアイデアには巡り会えないとも思っています。私たちのようなリーダー層だけでなく、研究員ひとりひとりが他の入居企業の方々と交流して、他社の研究に興味を持てるような機会を増やしていきたいです。湘南アイパークのご協力もいただきながら、キリンとしてもいろいろな仕掛けを作っていきたいと思います。

最後に、今後のヘルスサイエンス事業の推進に向けて、抱負をお聞かせください。

高見氏

これからの時代、イノベーションは1社では生み出せないと考えています。湘南アイパークが掲げるオープンイノベーションのもとに集まった多くの企業とコラボレーションすることによって、今まで考えられなかったアイデア、今まで実現できなかったアイデアも実現する可能性を秘めています。「競争から協調へ」をキーワードにみんながオープンに意見を出し合って、一緒にヘルスサイエンスの未来を創っていきたいです。

矢島氏

湘南アイパークの入居企業には製薬・創薬企業が多く、医と食の間に位置付けられるヘルスサイエンスを研究する私たちは少し立ち位置が異なる存在ではあります。だからこそ、医療現場を念頭に薬品を開発している企業の視野を(健康な人もお客さまとなる)ヘルスサイエンスの観点から広げられるようなお付き合いが生まれることにも期待しています。